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「人

 生まれいずる

               星」

 −序章−




























































 動いている!動いている!生きている!邪魔な枝やつるをむしりとってやる。ずり落ちそうになる体を支えながら一緒に地面に降りる。よく茂った草の上に降ろすとゆっくりと起き上がった。
 でもこちらを見ようともしない。互いの体に触れるあいさつもしない。
 なんだか見るたびに体の毛がどんどん抜けてしまっている。今も涼しそうだけど、弱そうにも見えるなぁ。

 見ていると、自分の重みに疲れたように木の根元にうずくまってしまう。
でも動きをとめない。体を揺らし、足をゆっくりゆっくり曲げて、二本の手で体を支えながら起き上がる。
うまくひざやひじを曲げられず、草むらに顔から突っ込むようにして、木々の間を少しずつ這っていく。
 
 抱えられて揺すられてつつかれても、ぜんぜん動かなかった体が何かに引っ張られるように動いている。
 どこへ行きたいのかな。甘い果物も、緑色の草もここにあるのに。
それにどうして膝をこすって這っているのかな。

 何か面白い生き物がいるのかと辺りを見ても、何もいない。
ただ、昼でも薄暗い森の中のわずかな葉の隙間から差し込む光が影を作り、風がその影を動かしているだけだ。

やがて森の中で昼の終わりを知らせる虫が鳴き始め、空を飛ぶやつらが巣穴へ帰ってきた。
そろそろ仲間たちのいる寝床に帰らなくちゃいけない。
前を頼りなく進むものの、小さい傷や泥で汚れた腕に触った。すると。


 初めてこちらを見た。でも、目は相変わらずぼんやりとしたままで、また前を向いてしまう。何をしたいのかさっぱり分からない。

 でも長い間仲間から離れたままだ。みんな心配しているかもしれない。

 帰ろうと腕を引いたはずみで地面に倒れてしまい、そのままゆっくり目を閉じてしまった。

 背負って帰るのはあきらめて、その場の草で寝床を作り横たえる。明日つれて帰ればいい。

 でもせっかくつれて帰っても、朝目が覚めるといつもいなくなっている。

 そしていつも音をたどると、すぐに見つけられる。前を這うものの口の前に果物を差し出したけど、なんの興味もないみたいだ。それに、だんだん這い進む速さが速くなっていく。

 ああ、立ち上がった!ふらふらと危なっかしい。
大きい体を自分で支えられないみたいだ。手を貸してやると、それにつかまりながら足を動かそうとしている。

 何度連れ帰っても、何も飲まず、何も食べずに進もうとしているこの方向に、一体何があるのだろう。
 一緒に行けばわかる。初めて自分から動き出したんだ。
なにかを探して。でも、なにが欲しいの?

 なにが、なにが待っているの?




 
 15万年前、この星の上に巧みに「ことば」を操る「新しきヒト」が現れた。
彼らは競い合いながらも「旧きヒト」から死んだものを土に埋める習わしを受け継ぎ、同じように北の大陸、東の大陸へと進出していく。
 
 旧きヒト、ネアンデルターレンシスも「ことば」を持っていた。

 しかし新しきヒト、サピエンスはネアンデルターレンシスとちがうのどを持っていた。

 そののどはもっと多くの「ことば」を使い分けることができた。

 食べられる植物、獲物の狩り方などを親から子へと受け継ぐために、
サピエンスはのどと舌と歯、そして唇と鼻までも使い始めたのだ。

 
 
 

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