第1章 「言葉」が生まれ、そして「嘘」が生まれた
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強い日の光をさえぎる葉が沢山しげった木々。
それが次第に少なくなり、体を隠せる草むらもどんどん小さくなっていく。
森の隙間に広がっていた草むらとは違う熱く乾いた風のにおいがした。見たことのない世界が今、すぐそこで待っている。
山から続く森のふちから一人の男が現れた。
はじめて見るはずのどこまでも続く草原にも足をとめることなく、歩き続ける。
目はぼんやりとあちこちにあるわずかな茂みや、小さな水辺に集まる動物たちに向けられたが、休むことなくゆっくりと、だがまっすぐ足を動かし続ける。
それに合わせて、また風に吹かれて、長く伸びた髪が揺れる。
すると、その男を追うようにだいぶ遅れて一匹のヒョウが森から現れた。
周りの全てに視線を向け、緊張よりも好奇心で一杯の若いヒョウだ。
五枚の花びらのような、小さくて黒い模様が体を覆っている。
ヒョウは時々、男に近づいて横を歩いたり、追い抜いて前を歩いたりして、離れることなくついていく。
地平線がなだらかな稜線を描く大地を、一人と一匹は日が昇り、暗くなるまで毎日歩き続けた。
数週間後、ヒョウの鼻がまたかぎなれぬ臭いにうごめいた。はるか遠くで白いものが空に向かって芋虫のように形を変えながら伸びてゆき、独特なにおいを放っている。
男の足はまっすぐその白い煙のほうへ向かっていく。
煙の根元では毛皮を着た男や女が10人ほどいた。
たくましい足やうでをむき出しにして、長く鋭い木の槍先を火で焼き固めたり、松明に火を移したりしている。彼らは、すぐおかしな男が近づいてくるのに気づいた。
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