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「人

 生まれいずる

               星」

 −序章−




































































 山脈は西の海から来る雨雲をさえぎり続け、500万年前には大陸の東に広
がっていた豊かな森林は広大な草原へと変わろうとしていた。

 樹上の楽園は少しずつ狭くなり、差し込む日の光に照らされたものたちは、初めて互いと自分の姿を知った。

 それは生きるためにえさを奪い合わなければならない相手の姿でもあった。


 平和だった緑の王国は、少なくなった葉と果実をめぐる戦いの場となったのだ。

 体が大きくもなく小さくもないものたちはある日、より小さいものたちの群れに出会った。彼らは、小さいものたちが食べていた果実の木を奪おうとそこから追い払ってしまった。

 更に彼らは、自分たちによく似たものたちも獲物として襲い、食べるようになった。 

 もっとも大きく、重い体を持つものと戦っても一匹同士では敵わない。だが集団でまだ幼い子供を狙い、奪いとるのは難しくない。その中で仲間を従える者とそれに従う者たちが現れた。彼らは群れとしての意思で他の種族たちを遠くへ、森の奥へと追い払ってしまった。

 競争相手を減らしても、森がなくては生きられない。

 木の上の果実で生きてきた彼ら、類人猿の多くの種は小さくなった森と森の間を敵の目を避けながら移動しなければならなくなった。    
 
 そして400万年前、枝からぶら下がり続け、顔を出して水の中を移動し、時々草むらから立ち上がって敵を見つけてきた類人猿達が、この地上でティラノサウルスをまねるように、鳥に続くように二本の足で歩き始めた。これが「猿のヒト」である。

 彼らは分かれ、共に生き、競い合い、滅び、そしてまた新しい種を生み出し続けた。

 そんな中、160万年前にその中の一つの種が二本の足で広大な草原を群れでさまよい、 木の根を骨や石で掘って食べはじめた。

 根ではなく、肉を食べるものたちは牙のあるけものの食べ残しを求めて草原を歩いた。

 彼らは後に「始まりのヒト」となる。

 縄張り争いやえさの奪い合いから北の大陸へ、東の大陸へと散らばり始めた「始まりのヒト」は、肉を糧に頭の中の知恵の芽を育て、「火」に集い、やがて自ら「狩り」を始めた。

 そして30万年前の広い草原で、次に「やり」を使い、動物の毛皮をまとって寒さをしのぎ、互いの目にさらされる体をかくす「旧きヒト」があらわれた。

 彼らもまた北へ、東へと先に生まれたものたちを追っていった。

           




 朝もやの匂いはいい匂い。森の生き物たちも起きて、にぎやかになり始める。 

 寝床から起きて、早速近くの草をちぎって食べる。うん、おいしい。

 もっとおいしい草や果物はないかな。やっと起きだした仲間から離れて探検しよう。

 少しはなれたところには年寄りの木がある。この森はみんな年寄りの木ばかりだけど、その木は特に大きい。

 その幹のなつかしいもの。

 ずっと眠っていて、あるとき目を開けた。開けたけれど、少しも動かない。何も食べないし、何も飲まない。

 雨が降っても、みんなによじ登られても動かず、明るいうちはただ目を開けたまま。いつもぼんやりしている。

 背中につかまらせたり、腹にぶらさがらせることもできなくて、そのままにしておくしかない。

 するどい牙や爪のある生き物に食べられないかと思ったけど、木や石のようにいつもそこにいる。

 でも、今、朝の光の中で動いている・・・!

 木の根やつるが絡んだまま、じっと動かなかったものがゆっくりと、でも確かに動いていた。根の又に引っかかった手を動かしてなんとか自由になろうとしている。

 
 
 

                        
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