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「人

 生まれいずる

               星」

 −第1章−

 <第1話>








































































































「あんたの母さん、足に傷があったか?……そうか。私たち、会ったとき、もう冷たかった。蛇か何かの毒で死んだ。
あの男が薬草を摘んで治そうとしたみたいだけど、間に合わなかった。
ここから少し歩いたところ、ここより小さい洞窟がある。そこに埋めてきたよ……」
「……知ってる。みんなで前、そこにいたから。
母さんがそこにあいつとヒョウを連れて行ったんだ……!」
 言葉の微妙な違いを埋めようと、身振り手振りを交えて二人は話し続けた。
「あいつ……、あいつが来なければ、母さんは一人にならなかった!毒で死ななかった!」
 そばに置いた槍に伸ばしかけたその手を長の女は止めた。

  彼女が落ち着くように果物を小さくちぎって、口元に運んで食べさせてやりながら長の女は考えた。
この子の仲間はヒョウを恐れて遠くへ行ったらしい。
ヒョウはもう別の獲物を見つけてどこかへ行ったのだろうか。
でも、もう危険な獣がいないと分かれば彼女の仲間が戻ってきて、この場所を巡って自分たちと争いになるかもしれない。
「みんなには言わなかったが・・・。さっきそこでヒョウ、見た。やっぱりこの洞窟が好きなんだろう。もしかしたらやつの巣だったかもしれない。私たちも早く移動する」
 そう嘘をつくしかなかった。そして更に、娘に仲間のところへ帰るよう勧めた。

 娘は考えた。ヒョウも戻ってきたのだ。
やっぱりあの男に付いてきている。あの男に何かすれば、自分もこの長の仲間も殺されてしまうかもしれない。
このまま帰るしかないのか・・・。

 数日かけて娘の体力は戻っていったが、男とヒョウに対する恨みは消し去ることはできなかった。

 それを見て取った長の女は二人の青年を呼んだ。

 二人はどちらも狩りに長けていた。一人は自ら危険に飛び込むような若者で、顔も体も傷跡だらけだった。
もう一人は長身で、地形や獲物の様子を見ながら堅実な狩りを行ってきた慎重な若者だ。

 長の女は二人の若者に、娘を元の仲間のところまで送るように言いつけた。
辺りにいる沢山の獲物を前に、「狩りに出られない」と傷の若者は不平を言ったが、長身の若者になだめられ最後は承諾した。
彼らも魅力的な娘がいたという他の群れに興味があったからだ。

 用意を整えると、次の日3人は出発した。
娘は一度だけ振り返って、狩りの準備を習っているあの男をしばらく見つめると、再び背を向けて歩き出す。
長の女は二人の青年と共に小さくなっていくその姿を見送った。

 空の月の形がすっかり変わった頃、群れには長身の若者だけが戻ってきた。

 傷の若者は途中から娘と親しくなり、そのまま彼女の群れに残ったのだと言う。
それを聞くと皆は、気まぐれなところのある傷の若者の性格を思い出して妙に納得した。

 幼い頃に母をなくした彼は、恐れることなく新しい群れで新しい暮らしを始めるだろう。
群れにはもう一人の狩りの名手になる若者が残ったのだから、何も心配は要らない。

 長の女も将来、長になるだろう若者が帰ってきてくれたことに安堵していた。


 だが、それ以来長身の若者は一人で考え込んでいることが多くなった。

今の住処である洞窟までの道を示した男が少しずつ言葉を覚えて口数が増える一方で、若者はだんだん無口になっていった。

 そんな彼が見張り番になったある夜。

 沢山の獲物を追い回し、解体して疲れきった仲間たちはすっかり眠り込んでいた。
空には埋め尽くすほどの小さな光が灯っていたが、地上は焚き火を起こしても照らしきれない暗闇に覆われている。

 若者が気配を感じて顔を向けると、あの男が近くに腰を下ろしたところだった。
最近は表情がはっきりしてきたが、今は困惑を浮かべて若者の手元を見つめている。

 若者の手には石刃があった。だが削るべき肉片も木片もその手にはない。
「ずっと考えていた・・・」ぽつりと独り言のように、若者はつぶやいた。
「あの娘を見たとき、オレもあいつもあの娘を好きになった。
3人で群れを離れてから、もっと好きになった。
でもあの娘はあいつを好きになった。
オレとあいつは同じ頃生まれた。みんなも、オレとあいつの狩りの腕は同じだと言った。なら、どうして・・・」

 若者は石刃を静かに動かし、自分の腕に当てた。
力をこめて、引く。沢山の出血には至らない、それでもすぐには治らないぎざぎざの傷を黙ってつけていく。
表情は変えぬまま、だが若者の目は今まで見せたことのない光を宿していた。
「傷が、違うのか・・・?」男が若者の考えを読むように問うた。
「そうだ」動きを止めた若者はうなずくと、また石刃を動かした。
「オレはあいつと同じだった。体の傷の多さだけ違った」

 腕の傷から血が滴り落ちる。男は顔をゆがませた。
他人の傷と血を見て、自分も傷ついたような痛みを感じたからだ。

             

 
   
 


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