<< SKIP   < PRE     □ CHARACTERS     NEXT >   SKIP >>

「人

 生まれいずる

               星」

 −第1章− 

 <第5話>






















































































 

 

 目を閉じてから、しばらくすると見えてくるもの。
それは「夢」というものなのだと、遠い昔に教えられた。
そしてよく見る「夢」には何か意味があるのだと。


 以前よく見ていた夢。その夢の中ではいつも丸いものが周りに散らばって浮いていた。
今思えばそれは川や海の中の光景に似ていた。


 辺りにはぼんやりした光が揺らめき、水の中に潜っているかのようだった。


 泡のようなその丸いもの。それは今の仲間に出会ってから、夜毎夢を見るたびに大きくなっていった。自分が近づいているのか、それがこちらへ近づいて来ているのか分からない内に、気付けば目の前のその一つしか見えないぐらい、大きくなっていた。

 
 葉っぱの上の露を前にしたアリはこんな気持ちかもしれない。
目覚めるとそんな事を思った。

 
 でも泡や露と違うのは、その中に色んなものがきれいに映り、そこから音や声まで感じ取れること。


 とりわけ奇妙だったのは獣の頭に自分と同じく5本の指のある手足、時には立って歩く獣など、獣でもなく二本足の仲間でもないモノの夢だった。


 長老から技を学び、更に道具に工夫を凝らしても全ての獣にはかなわない。狩ることができる獣がいる一方で、まだ出会うことさえ恐ろしい獣がいる。


 なぜ彼らはあんなにも速く走り、高く飛び、舞い上がり、音もなく近づけるのか。仕掛けた罠もすぐに気付かれることがある。その鋭い爪と牙と強い力を何度欲しがっただろう。


 実はトラやヘビなどの森の生き物は山の精霊からの使いで、サメやワニなどの水の生き物は海の精霊の使いなのだと言う。

 
 そういえば誰かが言っていた。夢に現れた半分獣のようなモノは精霊の使いのもう一つの姿なのだろうと。

 
 彼らは時に二本足の者を連れて行き、代わりに自分達に沢山の獲物を贈ってくれる。そしてこちらが精霊の怒りを買うようなことをすると、罰として彼らに命を奪われてしまう。

 

夢の中で精霊の使い達は二本の足で立って歩き、何かを語っていた。でも最近その夢を全く見なくなった。

彼らは一体何を話していたのだろう?

 

 

 

 


 今日も山の頂上からは白い煙が立ち上っている。
深い森を見渡すように頭を突き出した山々の中でもその火山は一際目立っていた。


 タナウは足を急がせながら、その火の山を見た。
山に宿る精霊は獣たちを従える偉大な存在だ。
しかもあの火の山にいるのは、その煙で雲まで作って雨を降らせ、時に嵐まで作り出す特別な精霊だ。


 自分達は火によって身を守り、獲物を追い詰め、煙によって互いの場所を知らせてきた。その火と煙の両方を天空に掲げた火の山は多くの者にとって導きの山だ。山の者たちは皆遠くに見えるその煙と、夜空を照らすその頂上の灯りを頼りに、火の山からまた別の火の山へと移動を重ねてきた。


 タナウは父からごく簡単にそのことを教えられただけだった。
まだ少年のタナウにその全ては理解できなかったが、山を見るとなぜか気持ちが落ち着くので、よく目を向けていた。


 だが今日はその火の山の精霊に嬉しさから大きな声で呼びかけたくな
った。でもそんなことをすれば罰が当たるかもしれない。
だから少年は呼びかける代わりに足を速めた。


 程なく遊び仲間の住処が見えてきた。木々の間に大きな枝をうまく立てかけて組み合わせ、沢山の葉で覆ったものがいくつかある。
少年はそのうちの一つに駆け寄った。

「ワムギ! ワムギ!」


 友達の名を呼ぶ。葉を掻き分けて出てきたのは、顎が少し前に突き出ていて、眉の部分も盛り上がったワムギの姉だ。「ワムギ、どこ?」


 彼女が何事か言いながら指をさした方向を見ると、丁度草むらから本人が出てくるところだった。とってきた果物を腕に抱えている。タナウに気付くと目を輝かせた。


 二人の年や体格、顔つきは今のところ似たり寄ったりだ。
タナウにはワムギが大人になって、姉や他の仲間のように顎や眉の盛り上がりが目立つようになるなんて想像できなかった。
ワムギは男だからその特徴がもっとはっきり現れるはずだった。
自分達の群れは大人になってもそこまで顔の形は変わらない。
いつまでも子供のようでタナウには今からそれが不満だった。


 二人は互いに親しみを体で表しながら近寄った。

「僕の父さん、帰ってきたよ! 一緒に山と海へ行こう! 山者(やまもの)海者(うみもの)を見に行こう!」


 タナウは手振り身振りを巧みに使って伝えた。
ワムギは音は聞こえるけれど、こちらの言葉がわからない。
勿論声は出せるけれど、話はできなかった。
だから二人の会話はいつも身振り手振りだ。


 それでもタナウが自分の父親の真似をし、山や海を指したりすると大体分かったようだ。押し付けるように腕の中の果物を姉に渡すと、その中の一つと銛をつかんで後をついてきた。


 ワムギの銛は、鋭く尖らせた木の先に切り込みを作り、そこにうすく削った石刃をはめ込んだものだ。獲物を思い切り刺し、又勢いよく抜いてもなかなかその石刃部分が取れない優れものだ。
と言っても本人が作ったわけではない。
タナウの父がタナウとワムギに同じものを作ってくれたのだ。
何しろワムギも彼の仲間もあまり手先が器用ではない。
石や木で道具を作ってもタナウ達のようにはできなかったからだ。

 

 

 

             << SKIP   < PRE    □ CHARACTERS    NEXT >   SKIP >>
               
                                  

   Tamasaka Library  玉酒    書房
 Home    Gallery    Novels     Notes       Mail        Link

inserted by FC2 system