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「人

 生まれいずる

               星」

 −第1章−

 <第1話>






















































































 何も身に着けず、何も持っていない見知らぬ男が歩いてくるのだ。
人々は驚いて槍を取り、何人かが矛先を向け威嚇した。

 離れていたヒョウがすぐに何歩か近づき、それに気づいた者達は再びざわめいた。

「おまえ、どこ来た」「ヒョウ、お前襲ったか」「おまえ、一人か」
 見ると彼らの大半より、裸の男は年上のようだ。
彼らのほとんどは、自分の子どもが一人前になってしばらくすると、死んでしまう。
体が動かなくなる前に病気やケガで死ぬものが多かった。
一方、ヒョウは彼らにとって恐ろしい天敵だ。
音もなく近づき、子どもたちをさらっていく。
彼らは裸の男とヒョウを見比べて、ヒョウにやり先を向ける。
「どうしてここ、来た」
 男たちの一人が問う。
「ヒョウ、お前襲うか」
 ヒョウの動きに合わせて槍先を向けていた女が言った。

騒ぎを聞きつけて、一番年長らしい大男が近くの洞窟から現れた。
同じ年位の男が何も着ずに、ケガもなく追われている様子もなくヒョウと一緒にいるのだ。
大男には事情がまるでわからなかった。しかしここで戦えば、ヒョウを傷つけて追い払えたとしても、後で何をされるか分からない。

 大声を出したり、火のついた薪で驚かしてみたが、ヒョウはうなり声を上げるだけで去ろうとしない。
それでもヒョウがただ立ったままの男の顔を何度もうかがうのを見て、大男は考えを変えた。
男を行かせれば、ヒョウもついていくかもしれない。
しかし、男にはまったく言葉が通じなかった。

 大男は身振りを交えてついてくるように伝えると、仲間を促して一緒に歩き出した。
裸の男とヒョウが後をついてくるのを何度も振り返って確認する。

 ヒョウは「二本足の生き物は鳥しか知らない」と言うように、彼らをじっくり眺めた。
槍と皮袋を手に歩く人間の群れの臭いに鼻を動かす。
 
 ヒョウが現れる前に戻っていた見張りの話から、皆は手はずどおり途中で二つに分かれた。先ほどの彼らはちょうど狩りの準備をしているところだったのだろう。
半分は小高い丘の上に上ると、体を低くして岩陰に隠れる。
男とヒョウは木立の影で歩みを制止された。

 丘の下の草原では、頭に2本の角がある、大きく黒っぽい生き物が小さい群れを作っていた。

            

 のんびり草を食べているその群れに、残りの狩人たちは風下からじりじりと近づいていく。
気づかれないように小声と手振りでやりとりし、槍を構える。
突然、大男が立ち上がり槍を持った手を勢いよく振り回す。
槍は風を裂いて飛び、一匹の横腹に突き刺さる。
それを合図に他のものたちも次々に槍を飛ばし始めた。

 近くにいる足の遅そうな数匹に狙いをさだめて、先を鋭くした木のやりを何本も突き刺して行く。
風下からも投げられた槍が飛んできて、逃げ惑う動物たちの驚きと恐怖と痛みの声が草原に荒れ狂った。

 狩人たちについてきた男は目を見開き、驚きか恐怖か、初めてその顔に表情のようなものを見せた。
彼についてきたヒョウは風が運んでくる血のにおいと悲鳴に身構える。
爪を立てて身を低くして、歯をむき出してうなり始める。

 角のある動物たちは逃げ道を探して走り回る。
体の大きいオスたちは猛然と丘に向かってきた。
狩人たちと、彼らについてきた男に向かっていく。
槍を投げてしまったものたちは、叫びながら駆け上り散り散りに逃げていく。
その流れに逆らって縫うように、うなり声が駆け抜ける。
ヒョウは生きた突風のように黒い獣に飛び掛った。

 普通、肉食獣は弱った獲物が息絶えるまで食らいついたまま離れようとしない。
だが、この若いヒョウは食らいついた獣が弱るとすぐに別の獣に襲いかかった。
人々はヒョウの次の獲物にならないようにじっと身を潜めた。


 草原が静けさを取り戻すと、動くものは黒い獣に止めを刺す人々と、けが人を助けるものと、自分が仕留めた獲物に食らいつくヒョウだけだった。

 裸の男は狩りの間も黒い獣たちが向かってきたときも、ほとんど同じ場所に立ってそれらを眺めていた。
しかしやがてその目はある光景に吸い寄せられた。

 いつの間にか、狩人たちは遠くから隠れて見ていたらしい子供も加わって獲物を取り囲んでいた。
大人たちと持っていた石のかけらでえものを切り分けようとしている。

 まず片側だけがうすい石で黒い毛皮に切り込みを入れ、もう一人が周りを粗く削った石で皮をはいでいく。
骨をたたきわるためにはまた別の石を選んで使っていた。

 昨日まで草原を歩いていた黒い獣は少しずつ、肉と毛皮と骨だけになっていく。
引き抜いた槍を持ったものたちが周りを見渡し始めた。
血の臭いに集まる他の獣を警戒しているらしい。

 解体が終わると、はぎとったばかりの大きい毛皮を広げて肉と骨をのせる。
更に毛皮を乗せて覆い隠す。はじを数人で持つと、あの大男を先頭に洞窟へ帰り始めた。
他の獣の食べ残しをあさらずに、骨付きの肉を抱えることができた。
久しぶりの狩りの成功にどの顔も満足げだ。

だが、だれもが食事を終えたヒョウが再び男と一緒についてくるのを見て不安に駆られていた。

     
 

                         
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