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「人

 生まれいずる

               星」

 −第1章− 

 <第3話>





























































 シャマは銛を握り締めているショマイを促すとドムハと共に群れの所へ戻った。マイニュは危険で厄介だと伝えられてきたが、自分の目で見たのは初めてだった。


 仲間内では、しばらく接触することのないように、狩りや漁の場所を反対側にずらしてみようということになった。

 案の定しばらくすると海岸でも遠くにマイニュの姿を見かけるようになった。
漁の合間に筏の上で休んでいるこちらを物珍しそうに見ているようだ。


 顔も目も合わせず互いをいないものとするように微妙な距離を保っていたが、それがショマイにはなんだか気に入らなかった。

 その日ショマイは見張り番として、今度は一人でマイニュの群れを見渡せる崖へ出かけた。


 自分たちと似たような顔、身体。お互いに避けあっている今の関係のほうが不自然な気がした。
今まで合流したいくつもの群れのように、うまくやれば一緒に生きられるはず。


 崖の上から見下ろすマイニュのねぐらの辺りに人影はまばらだった。
皆、狩りや漁に出ているのだろう。


 ショマイは狩りのときの癖で自然と気配を殺していた。
だからその音にすぐ気がついた。

茂みの中を頼りない足音がやってくる。二本足で、自分より小さい生き物だ。
音を立てないようにしているが、ショマイにはまだ及ばない。
とすれば考えられるのは仲間の子供か、マイニュの子供か、だ。


 茂みから姿を現したのは予感どおり、後者だった。
まだ子供だからか、近くで見ても違和感をほとんど感じない少年だ。
向こうもすぐにショマイに気がついた。一瞬の内に表情が変わる。
驚き、疑い、不安、そして恐怖へと。


 ショマイが気づいて手にしていた銛を捨てたときには、その少年はもう身を翻していた。

「待って!」

 通じるかどうかも分からないが、思わずショマイは叫んだ。


 自分は決して待ち伏せをしていた訳でも、襲いに来たわけでもないのに。
銛を置いてくればよかった。


 木や草に邪魔されても足はショマイと同じくらい速かった。
やっと手をつかんだと思ったら、今度は激しいもみ合いになった。
ショマイの首飾りの紐が切れ、貝がばらばらになる。


 少年が未知の言葉を叫んだ。助けを呼んでいるのか、罵倒しているのか。
なんとか誤解を解かなければ。


 手が緩んだ隙をつかれて、ショマイは突き飛ばされる。
だが、少年が再び走り出した方向を見て、急いで起き上がった。

「だめだ!そっちは……!」

 最後まで言う前に、少年の姿が掻き消えた。
慌てて駆け寄ると、力なくしゃがみこむ。

「ああ……」

 ショマイの足元は陸の終わりだった。石器を作るときに砕いた石のように、切り立った崖が海に吸い込まれている。
だが、どこにも少年はいない。少年だったものがはるか下の岩の上に横たわっているだけだ。
遠目にも頭から赤いものが流れ出し、ピクリとも動いていないのが分かった。


 波が何度ぶつかっても、その岩を伝う血は洗い流せそうになかった。


              

 ショマイはどうしたらいいか分からなかった。
しゃがみこんだまま、下草を握り締める。どうしてこんなことになったのか。
こんな光景は夢であって欲しかった。夜毎見る空ろな記憶であって欲しかった。


 もし彼女がより熟練した狩人だったなら、その時気づいたかもしれない。
影から自分を見つめているものがいることを。
だが彼女の耳は一切の音も気配も拾わず、聞こえるのはただ内から自分を責める声だけだった。



 夕暮れ時、ドムハは帰りが遅いショマイの様子を見に、一人崖に登ってみることにした。
実際ドムハよりも彼女のほうが狩りも上手いのだから「心配なんかして欲しくない」という彼女の言葉はよくわかる。


 それでも、馬鹿にされても笑われても、ドムハはショマイの近くにいるのが好きだった。



 だが、途中で行き会ったショマイは、最早よく知っている彼女ではなかった。
笑ったり、怒ったり、表情をころころと変える娘だったのに、顔をこわばらせて、話しかけてもぼんやりとしている。
彼女の暗い眼差しを見て、ドムハは自分まで顔がこわばっていくように感じた。


 

 

 

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