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「人

 生まれいずる

               星」

 −第1章− 

 <第3話>


















































































「分かった。よくやってくれた。腹が減っただろう。皆、今日の獲物で大きいのを食わせてやるよ」
「ありがと。でもどうせまた、魚でしょ?肉の方が好きなんだけどな」

 妹の憎まれ口も新しい土地への出発を前に弾んでいた。


 だが、シャマには一つ気がかりがあった。折角作った筏だが浜辺を引きずって持って行くわけにはいかない。
かといって筏は海に浮いているときでさえ、動かすには手で押したり縄で引いたりしなければならない。持っていくには二の足を踏まざるを得なかった。

「シャマ、今度の土地に嵐のせいか、木が沢山流れ着いてたよ。これでまた色々作れるね」


 ドムハの言葉にシャマは早速移動を決めた。



                    

 移動を重ねる間に大きくなっていたシャマの群れは海岸を長い列になって歩き続けた。
話に聞いたとおり、浜辺を進むにつれて、段々と漂着したものが増えていく。


 身軽なショマイは危ない道でも、歩いて面白い方を選びがちだ。
その点ドムハなら安全な行き方も通った迂回路もすべて覚えている。
子供も一緒の行程に無理はさせられない。何日かかけて目的の場所に着いたのは、陽射しが和らいだ頃だった。


 今までと同じような景色。少し違う波の音。少し違う風のにおい。

だが一番違うのは、遠く海の上に見える大きな影だ。
シャマが目を凝らしていると、ドムハがやってきた。

「あれはティンワだよ」

 ドムハは呟いた。遠目に緑がかって見えるその塊をじっと見つめている。

「『ティンワ』って何だ? あれは大きい岩じゃないのか? 見たことがあるのか?」

 シャマの問いにドムハは口ごもった。

「うん……。あれは大きくて、少しだけ木も見えるだろう……? 岩じゃない。皆は『ティンワ』と呼んでいた……と思う」

「この間、ここへ来たときか?」

「……違うかもしれない。でも前に来た時に……」

 ドムハはどこか空ろな口調で話しながら、記憶を探っていた。
ドムハの知っているティンワはもっと小さかった。
だが、ここから見えるあの形のものを、遠い昔にそう呼んでいた。

「ティンワか……。あそこまでなら、アレで行けるだろうか」

「この流れ着いた木で作ったもので?」

「ああ、聞いた通りに沢山あるからな」

 新しい場所に落ち着くと、早速流木の筏が作られ始めた。
小さい木は乾かした後に薪にされて減っていき、代わりに沢山の筏が浜辺を埋めていった。


 シャマは毎朝浜辺を見回りながら、陽を頭の上にかぶったようなティンワを眺めた。


 これまで遠くの対岸の存在をかすかに感じながらも、ずっと手の届かないものとあきらめ続けていた。
だが、あのティンワまでたどり着けば、何か道があるかもしれない。


 今までにない数に膨れ上がった仲間内での、細々とした問題や厄介な小競り合いに振り回されていても、ティンワのことを考えていると不思議と心が安らいだ。


 だが、そのシャマの僅かな安らぎも長くは続かなかった。

 急な知らせを告げに来たドムハと共に仲間の目を避けて、丘を抜け高い崖の上へ急ぐ。
真偽がわかるまで群れの皆を動揺させないためだ。
着いた先ではショマイが銛を手に岩陰に隠れていた。


 同じように岩陰に潜んでショマイの視線の先を追う。
少女は崖から見渡せる林の向こうを見ていた。


 自分たちと同じ二本足の群れだ。だが、よく見れば体つきは逞しく、胸も厚くて顎も頑丈そうだ。
自分達のように入れ墨をしているものは全く見当たらなかった。


 昔の長から聞かされてきた「強い狩人マイニュ」だった。
ほとんど見た目は変わらずとも、太い手足を持つその姿は「力」を感じさせた。
ドムハはいぶかしんだ。

「いつ、こんな近くに来たんだろう」

「あたしたちと同じくらいかもね。でも、こんなに近いんじゃ獲物の取り合いになるよ。どうする?」
「こちらも移動したばかりだからな。またすぐには移動できない。どうするか仲間と話し合おう」


 

 

 

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