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「人

 生まれいずる

               星」

 −第1章− 

 <第3話>
























































































 木に手をついて体を海に戻すと、ドムハは泡を食った。

「ここ……! 足が、届かない!」

 今まで浅瀬で潜ることはあっても、足が届かないところへは行かなかった。

何人も海で仲間を失った群れの掟でもあったからだ。

「大丈夫だ。すぐそこまで行けば足が届く。木から手を離すなよ」

「どうして、こんなところまで?」

「この木は俺達と同じくらいの大きさだが、海に浮いているだろう。もしかしたらオレ達も浮くんじゃないかと前の長が言っていたんだ」

 確かに石のようには沈んでいかないが、しかし足が底についていない不安はかなりのものだ。
どこまで深いか上からは分からず、何かに引きずり込まれるような恐れが這い上がってくる。

「よし、そろそろ岸へ戻ろう。この木につかまって足を動かすんだ」

 シャマの顔も緊張している。しかし彼にはそれを乗り越える強い意志があるのだ。ドムハは改めてシャマの長としての資質を感じた。


 足が底に着くと心底ほっとしてドムハはため息をついた。

「悪かったよ、ドムハ。でもふざけていたわけじゃない。これでもっと深いところにいる魚や海草も獲れるかもしれないからな」

「しかし危険だよ。もし波に流されたら……」

「……そうだな。それを考えないとな」

 流木を浜へ引き上げると二人はそこに座り込んだ。
時はすでに夕刻だ。沈む日を背にして、ドムハは海面を眺めた。


 視線の先、日が顔を出す方角。遠くの海は夜の闇に音もなく飲まれていく。
シャマの指がその闇に向かって伸びた。

「明るい時、向こうに岸が見えるだろう。遠いけれど、あちらになら広くて豊かな土地があるかもしれない。もし、そこに行けたら……」

「行けたら?」

 背後から声がして二人は驚いた。逆光に姿を浮かび上がらせた娘が立っている。

「いつまで遊んでんの。悪い子はマイニュに連れて行かれるよ」

まるで母親のようなショマイの台詞にシャマとドムハは顔を見合わせて笑った。
ねぐらへ帰るために立ち上がる。歩きながらもシャマは口数少なく何かを考えていた。


 三人を見送るように浅瀬が軽く小さい音を立てていた。



 しばらく後、シャマとドムハが例の浜辺へ行くと、子供たちが駆け寄ってきた。またどこからか大きい流木が流れ着いたとうれしそうに話す。


 どの顔もまた流木に乗りたくてうずうずしていた。
シャマは大人として長として、自分がいないときは海の中で流木を使わないことを約束させると、相手をしてやることにした。


 子供たちの話からシャマのやっていることに興味を持っている大人たちも出てきている。
まだ何が出来るわけではないが、安全なものであることは知っておいて欲しかった。


 シャマはドムハと新しい流木も波打ち際まで運んで並べると、漁の網にも使っている蔓や葦で二本の流木を結びつけた。


 子供だけでなく、ドムハも目が好奇心で真ん丸くなる。


 一本の流木だと海の上でくるりと回転して不安定だが、これならずっと安定するはずだ。
その分重くなってしまったが、結び終わる頃には潮が満ちてきて浅瀬に浮かび始めた。


 その様をじっと見ていた大人二人も子供たちも走り寄ると、狙いが当たった喜びに歓声を上げた。


 小さな波に乗った小さな筏に子供たちは代わる代わる乗っては、はしゃぎ続けた。



                    

 小さな筏は早速群れの皆に知れ渡った。潜って採った海草や貝を一時載せておく荷物置き場として浅瀬に浮かべられ、つかまって休むこともできて喜ばれた。


 潮が満ちて流されないように、縄で海底の重い石に結び付けられた筏が当たり前になった頃。


 群れはまた、乏しくなった獲物を求めて移動することになった。


 シャマは長として新しい土地を調べに行く者にドムハと、狩りの腕を買って妹のショマイも加えた。


 ドムハは以前から一度見た景色をよく覚えていて、役に立つことが多かったからだ。

何日かで無事戻ってきた彼らの話では、まだ誰もいない土地だったという。


 ショマイは数日前に見てきた景色を思い浮かべながら話し、シャマは確認するようにドムハの顔を見た。

「ああ、誰もいなかった」

ドムハは頷き、シャマは二人をねぎらった。

 

 

 

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