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「人

 生まれいずる

               星」

 −第1章− 

 <第3話>























































































「シャマ!魚が焼けたよ!」


 聞きなれた声にシャマはひげに縁取られた顔をめぐらせた。


 駆け寄ってきたのは年の離れた妹、ショマイだ。
狩りが得意で、昼の光が似合う大らかな娘だ。側にドムハも腰を下ろして、火で魚をあぶっている。


 ドムハはしばらく前に合流した群れの青年で、元々はまた別の群れにいたらしい。珍しい位肌が茶色く、髪は渦を巻いており、一人前の年頃なのに全く入れ墨をしていない。
そのことでどの群れでも大人と見なされず、周りから距離を置かれていた。
風変わりなところもあるが、歳が近いせいもあって何かとショマイと行動を共にしていた。


 一番大きい魚を刺した枝を受け取り、シャマは早速かじりつく。
ショマイも口いっぱいに魚を頬張った。

「んまい! でも、あたし、狩りができるところに生まれたかったなぁ。なんで漁ばかりする群れに生まれたんだろ」

「お前が満足できるほど狩りができるところなんて、この辺にはそうそうないぞ」

 シャマは呆れて言った。

 昔、川や浅瀬の魚を銛で突くだけだった漁も、深い川や海で広く散らばる魚をうまく捕るために変わりつつあった。


 浅瀬に潜って海草を採ることで段々泳ぎに慣れていったが、動く魚を泳いで捕るのは骨が折れる。


 そこで果物を縛ってまとめていた蔓や葦、貝の穴に通していた腱などをより合わせて作った荷物入れを使った。今度はそれを網として、大きく広げて使い始めたのだ。
段々大きなものになり、魚影に向けて投げる時にうまく広がるように端に石を結び付けるなど、試行錯誤が繰り返された。後の投網漁の原型である。

ショマイは男達のように狩りが好きだったが、漁が苦手なわけではない。
毎朝早起きすると他の仲間を促して早速海岸へ向かう。


 昔、祖母から教わった編み方に自分なりの工夫を加えたショマイの網はいつも最も多くの魚を捕らえることができる。昨日漏らした不平も忘れて腰まで水に漬かると、長い髪をなびかせながら網を投げた。



 昼下がり、シャマは漁がひと段落するといつもある場所へ足を向ける。
潮の流れでいろいろなものが打ち寄せられる場所だ。


 そこは子供達にとってもお気に入りの場所で、親の手伝いと腹ごなしを済ませると今日もやってきた。


 今日は子供達の最後尾にドムハも並んでいた。


 ドムハが眺めていた水平線から目を転じると、子供達が小魚がはねるようにはしゃぐ向こうで、シャマが流木を波打ち際へ引きずっている。


 ドムハは近づくと黙って手伝い、二人で大きめの流木を波へ戻した。
シャマは自身も海に入ると上から木を押して、何かを確かめると子供達の一人を呼んだ。

「おーい、オレの子供のころの遊びを教えてやるぞ」


 大人たちといる時と違い、ここにいる時のシャマは怖くないらしく、ためらう風もなく駆けてくる。


 ドムハはシャマが一人、ここで何かを作ろうとしていることに気づいていた。
今までも小さい流木を集めて、海に漂わせたりしていた。
それが気になって、ついここに足が向いてしまうのだ。


 シャマは子供を持ち上げると、ドムハに押さえさせた流木にそっと降ろす。
子供の緊張はすぐに収まり、初めての体験に興奮してはしゃいだ。


 シャマは相手をしながら、そっと流木ごと押して、少しずつ深いところへ向かう。


 子供は揺れる波と動く流木の上でバランスを取る遊びに夢中で、浅瀬に戻るまで水への恐怖をすっかり忘れていた。
大きな子供でも一人なら乗っても沈まないことを確認すると、シャマは納得するように何度も頷いた。


                    


子供達が森へ行ったある日。今度は若干体の軽そうなドムハに乗るように言った。

「端じゃなくて真ん中に身体を乗せてみろ。体半分は大丈夫だな……。よし、腰を乗せてまたがってみろ」

 ドムハの重みに流木は沈む寸前だ。二人は漂いながら少しずつ浜から離れていく。

「シャマ、これ以上離れると……」

 波のゆれが激しくなり、バランスが危うくなってきた。
「よし、降りてもいいぞ」


 

 

 

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