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「人

 生まれいずる

               星」

 −第1章− 

 <第3話>


























































































3
               
辺りが暗くなって、目を閉じると見えてくるもう一つの景色。


 遠くにも近くにも漂っているものがある。その一つ一つは小さく、丸い。


 だが、その中には見覚えのない人や獣が行き交い、鳥が飛び、山や川や海があるのが見える。この一つ一つが小さな世界なのだ。

 
 そしてそこから聞こえてくる。いろいろな〈声〉が。


〈どこにいる?〉        〈行かないで!〉

                       〈どうしてこんなことに……〉

         〈死ぬな!〉

〈ひどいよ!〉                   〈誰か助けて!〉

           〈はやく帰ってきて……〉


 笑い声に混じって、どこからか時折そんな〈声〉が聞こえる。


 胸を締め付けるような、自らを傷つけるような……。


 ああ、あれは……。


 「悲しみ」というものの〈声〉だ。


 かつて自分の中にも感じられたもののはずなのに、今はひどく遠いもののように思える。

 

 ……今度は小さな少女の〈声〉だ。何度も何度も、繰り返し誰かの名を呼んでいる。


 この〈声〉は「不安」だろうか、「願い」だったろうか。


 辺りが明るくなるにつれ、浮かんでいた沢山の世界も、〈声〉も、その光に溶けてゆく。

 共に移動してきた仲間が次々にいなくなり、側にいた少年と二人きりになってから、何日かこの繰り返しを見てきた。


 ずっと以前にも見ていた。しばらく見なかったのは一体いつからだったろうか……。





 大陸の裂け目の間にできた多くの湖沼はやがて一本の大河を生み出した。
いくつもの滝によって山を降り、緑の湿原を作り、閉じかけた海へと注ぐその大河に沿って、多くの動物が移動し、二本足の群れもそれを追って北上した。


 その身を傷と炭で彩る者たちもやがて同じ道をたどっていった。


 見た目に差ほど違いのなかった二つの種族は、閉じかけた海を西に臨む地で出会うことになる。


 だが、それは必ずしも幸福な出会いばかりではなかった。


 旧き群れの者は皆、体が一回り大きく、既にその土地に強く根付いていた。


 後から来た者たちがたとえ多くの言葉とそれによって積み重ねた知恵を用いても、土地と獲物を奪い取ることは容易ではない。


 やがて新しき群れの者達はその先駆者達のように強く、厄介な相手を「マイニュ」と呼んで警戒するようになった。


 追い討ちをかけるように地表全体が徐々に寒くなり始めると、動物達は緑を求めて今度は逆に南下を始めた。
植物の恵みと獣達の肉を得られなくなった新しき群れは旧き群れの南下に更に追い詰められていった。
二つの種族はそれぞれに多くの仲間を失いながらも、冷たく乾いて荒れ始めた土地を避けて、細く狭い南の海の岸辺へと集まり始めていた。


 西の岸辺に集まった彼らにとって、その海の向こうは東の大陸。未知の世界だ。


 極地で海水が氷となって水位が下がった分、広がった海岸や砂浜で彼らは命をつないでいた。



                    

 岩山の向こうに日が隠れ、そこここで火が起こされ始める。


 随分数が増えた、とシャマは思う。


 つい最近も小さな群れが加わり、人の数は増える一方だった。群れとそこに伝わる知恵が加われば、今までより多くの獲物を捕らえることができる。


 だが、獣や魚の数自体が増えるわけではなく、しばらくすれば却って早く食べるものがなくなって移動を迫られる。


 子供のころから続けてきた、余裕のない暮らし。今や自分は群れの長となったが、それもいつまで続けられるだろうか。

 今もまた、広くて豊かな土地をさがす時期が近づいて来ていた。
 

 

 

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