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「人

 生まれいずる

               星」

 −第1章−

   <第2話>










































































































 群れの者たちはともすると止まりそうな自分の足を動かし、兄妹の手を引くようにして歩を進めた。
誰もが言葉少なで、潮のにおいと波の音が遠ざかっていくのがいやでも分かった。

 川の両岸の緑は次第に濃くなっていく。それにつれて皆の足は遅くなる。

 今までの漁や小さい獲物を獲る狩りの時よりもさらに奥地へと入ったのだ。
ツェボを含むほとんどの者にとって生まれて初めての経験だ。

 いざというときは川沿いに下れば、また海へ出られる。
いつしか、誰もがそう思うことで不安を紛らわせようとしていた。

 かつて海から陸へ生命が切り開いた道をもう一度たどるように彼らは進んだ。

 そして、夜空に浮かぶ「天の片目」が開き始めたころ。

 聞きなれない様々な生き物の鳴き声、かぎなれない草花のにおいに戸惑いながら、狩場を求めて群れはついに川を離れた。

 食べられるものはなんでも食べなければならない。
今まであまり機会がなかった死肉漁りも行われるようになった。

 だが、慣れない大掛かりな狩りも失敗が続き、夜になれば四方を警戒しながら休まねばならない。

 海へ帰れるといっても、帰ったところで飢えるだけだ。
彼らが結局川辺の漁に頼りがちだったのは、魚の味が恋しいというだけではなかっただろう。


 川辺近くにねぐらを戻した彼らの日課は当然漁だ。
その日もツェボは張り切って仲間の先頭を歩いて川岸に着いた。
ティティは他の仲間と果物取りだ。

 いつもより騒がしい鳥の声に辺りを見渡すツェボの目にあるものが飛び込んできた。

 それは大きく黒い毛で覆われた獣のむくろだった。
川の中で折れた木に引っかかり、体からはわずかになった血が流れ出し、目にもはや光はなかった。

 人々は歓声を上げてそのピクリとも動かない骸に駆け寄ると、石刃でその皮を剥いだ。海を離れてから初めてと言っていい幸運に皆沸き立った。

 前触れもなく大きな叫びが響いた。辺りの茂みから沢山の男たちが飛び出してきた。
骸の周りに集まったツェボたちを10人ほどで取り囲む。

 肌はツェボ達と同じくよく焼けていたが、その手足にはさまざまな入れ墨が彫られていた。ムサの片腕だけだったものよりも、獣の模様を模しながらより複雑に見える黒い入れ墨だ。
その手にある槍を突きつけられ、ツェボ達は凍りついた。


               

 手足だけでなく体にまで入れ墨をした男が前に出ると、むくろを指差して何事かを言った。

 ツェボ達の長は立ち上がると身振り手振りを交えて、必死に意思の疎通を図った。

 どうやら解体しようとしていた獣はこの男たちが傷を負わせ、川に流されたものをここまで追ってきたらしい。

 死肉の優先権は先に見つけたものにあることが多かったが、ここでは通じそうになかった。
だれもが入れ墨の男たちの雰囲気に圧倒されていた。

 それでも少し分けてくれないかと長が頼むと、全身入れ墨の男は眉をひそめた。
だが、ツェボ達が皆首や腕に貝細工をつけているのに気づくと表情を変えた。

 顔を近づけてしげしげと眺める。他の狩人たちも近くにいる者の貝細工に目を見張った。どうやら初めて見るものらしい。

 相手の長らしき男はむくろに近づき、肉片を削ってそばのツェボの手に押し付けた。
そして、さも当然のような顔をして、手の届くところにあったツェボの首飾りをむしりとった。

 ツェボはそれを眺める間を男に与えなかった。
男に飛びついて、首飾りを持った手に噛み付いたのだ。
いつものツェボから予想しなかった行動に仲間たちは驚いた。
「ツェボ!!」「よせ!!」

 案じ止めようとする声と、怒りに満ちた声が重なった。
男はその太い腕を振ると、小さいツェボの体を投げ飛ばした。

 その体は一瞬宙に浮き、川岸の石に叩きつけられた。
「やめろ!」長が駆け寄って抱き上げると、ツェボは目をつぶったまま呻いた。
一方男は歯形のついた手を握り締めると、長の首飾りを指差した。

 何本もの槍を突きつけられたツェボの仲間たちの手も漁のための銛を構えていた。
勝ち目がないわけではないが、戦えば犠牲者が出るかもしれない。

 長は仲間全員に貝細工を全て渡させた。貝細工ならまた作ればいいのだ。
狩人たちはそれらを身に着けて満足すると、獣を瞬く間に解体し立ち去っていった。
残されたのはほんのわずかな肉片だけだった。

 人々はそれらを魚と一緒に籠に入れると、一行はツェボを抱えた長についてねぐらへ帰った。

 ねぐらで待っていた仲間たちは話を聞いてショックを受けた。長く草原を離れていた彼らには狩人たちは獣以上に獰猛に思えた。

 


 

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